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【2008/8】ブルータワー

№53 ブルータワー 著者『石田 衣良』 徳間文庫 500  ★★★

 人気作家・石田衣良初めての、SF長編なのだ。「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」シリーズで、一躍人気作家となった石田衣良だが、洗練された都会風アクションが持ち味。この「ブルータワー」が、意外にも初めてのSF風設定の長編なのだ。
 悪性の脳腫瘍ために、余命数ヶ月となった瀬野は、ある日激痛によって意識が無くなった。しかし目が覚めた先は200年後の東京。しかも高さ2キロメートルもある巨大な塔に住んでいたのだ。しかし地上は細菌兵器のウイルスが蔓延する世界。人類は大半が死滅し、残った人々は塔に閉じ込められ、上層階が下層階を支配する完全な階層社会となっていた。瀬野は、この社会が塔と共に崩壊しそうなことを知り、現代と200年後を往復しながら、塔の崩壊を救おうと決意するが・・・。
 SFといってもサイエンス部分はあまりなく、細菌兵器に侵され破滅寸前の世界という設定がSF的なのだ。しかも徹底的な格差社会という絶望的な状況の下で、現世で死の宣告を受けた瀬野が、200年後の世界をどうすれば救えるのか、という主題がストーリーを引っ張っていく。もちろん9.11テロが着想のきっかけなのだそうだ。倒壊する巨大タワーのイメージが、この小説の骨格を形成し、テロとその報復テロへの絶望が根底に流れているのだ。
 高さ2キロの巨大タワー、インフルエンザウイルスをベースにした細菌兵器、ブレスレット形状の個人用AI(パーソナルライブラリアン)といった、なかなか魅力的で説得性のある舞台設定がこの小説を支えている。もっとも、200年も経たなくともこの程度のテクノロジーは実現してしまうだろう。先日の新聞に載っていたのだが、高さ1キロの巨大ビルが現在競って建てられているそうだ。日本の建築技術なら高さ3キロのビルも実現できるが、場所がないのでまだ建ててないだけ、とのコメントだった。
 テクノロジーは加速度的に進化していく。しかし人間の価値観や社会はそう簡単には変わらない。取り扱いが危険なレベルに達したテクノロジーを、品性も欲望も昔のままの人間が、いつまで操れるのだろうか。200年前の人間が、最新のテクノロジーを駆使して社会を救うお話は、人はいつまで経っても進化できない生き物だと言っているようにも思えたのだった。

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【2008/8】ブルースカイ

№52 ブルースカイ 著者『桜庭 一樹』 ハヤカワ文庫JA 375  ★★★

 不思議な感覚のお話なのだ。今を時めく直木賞作家・桜庭一樹の、少女をめぐる3つのお話である。
 魔女狩りの嵐が吹き荒れる1627年のドイツ。祖母と静かに暮らす10歳の少女マリーにまで、魔女狩りの追っ手が迫ってきた。天から降ってきた黄色い人と共に、絶望的な逃避行が始まる・・・。2022年のシンガポール。3DCGのアーティストである青年は、自ら創造したゴシック世界のCGの中で、不思議な少女と出会うが・・・。2007年鹿児島。ケータイ命の女子高生は、突然桜島の大噴火に巻き込まれ、吹き飛ばされてしまうが・・・。
 第1話の魔女狩りのお話がなかなかリアルで不気味で良くできている。子供がいきなり大人になってしまう中世の世界。少女という概念がまだ無い時代。第2話の近未来になると、逆にジェンダー間の差が無くなり、オタクから発展したモラトリアムな青年が、文化の中心になる時代。第3話の現代では、少女達の商品価値は異常に高く、ケータイやファッション文化のリーダー的存在になっている。こう書くと何かテツガク系に思われそうだが、まったく異なり、少女としての感性で成り立っているようなファンタジーなのだ。かつて少女であった桜庭一樹の、時代感覚なのであろう。ケータイとでしか世界と繋がることができない、少女という生物。世界というシステムを、感覚だけを頼りに生きている、現代の少女に対するアンチテーゼな寓話に読めてしまったのだ。

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【2008/7】扉は閉ざされたまま

№51 僕扉は閉ざされたまま 著者『石持 浅海』 祥伝社文庫 321  ★★★

 『月の扉』『水の迷宮』と、魅惑的なミステリーを書いている石持浅海だが、この『扉は閉ざされたまま』で2005年「このミス」2位に選ばれ、ベストセラーとなっている。
 大学の同窓会で、7人の友人たちが豪華なペンションに集まった。伏見は入念な計画で完璧な密室をつくり、事故を装って後輩を殺害。犯行は成功したかに見えたが、優佳だけが疑問を抱く。閉ざされた扉を前に、部屋の中の状況を推理して、開けさせようとする優佳と、開けさせまいとする伏見の、息詰まる頭脳戦が続く・・・。
 この作品は、冒頭で犯行の様子が描かれる、いわゆる倒叙ミステリーなのだが、作者の作品の特徴である「理詰め会話」が顕著になっている。人の行動すべてに一つ一つ理由付けし、推理を積み重ねていくスタイルで、ストーリーが進んでいくのだ。犯人役と徹底的にロジカルな会話・議論をこなすことで、探偵役・優佳の推理の冴えが光ってくる仕掛けなのだ。犯行方法そのものは、最初の段階で大半が分かってしまっているので、謎の中心はなぜ犯人は扉を開けさせないことにこだわるのか、になる。この謎の答えや動機にはいろいろと議論があるようだが、ま~この部分がこのミステリーで、最もユニークで斬新なところなのだ。
 万人にお勧めできるミステリーと言うわけではないが、理詰めの議論がお好みの読者には喜んでくれるはずである。

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【2008/7】僕たちの終末

№50 僕たちの終末 著者『機本 伸司』 ハルキ文庫 554  ★★★

 SF界の奇才・機本伸司が、今度は恒星間宇宙船を造ったのだ。『神様のパズル』では巨大加速器による宇宙創生の実験を行い、『メシアの処方箋』では古代からのメッセージとDNA技術で、救世主を創ってみせたくれた。テーマだけ言うと、ハインラインや小松左京のような壮大な本格SFのようなのだが、語り口はいつも下世話な庶民派タイプで楽しませてくれる。
 2050年、太陽の活動異常により絶滅の危機を迎えた人類。天文学者の神崎は、宇宙船を5年で建造するという無茶な計画をぶち上げ、資金を募り始める。しかし待ち受けていたのは、予想だにしなかった難問の数々だった・・・。
 読み始めは、宇宙船の建造という壮大なプロジェクトを運営する物語なので、小川一水の『第六大陸』のようなイメージをしていたのだが、そうではなかった。最初は資金面、次に技術的課題、最後は政治問題にぶち当たるのだが、宇宙船の建造というエンジニアリング部分は完全にカット。主に、恒星間航行という技術的ブレークスルーが必要なところにアイデアと頁数を注ぎ込み、なかなか夢のある解答を出している。が、宇宙船の具体的な建造まではさすがに省いていた。
 ま~機本の語り口では、お堅いエンジニアリングよりか、軽妙な会話とスピーディな展開のほうが似合っているのは確か。また、神崎の所有しているケータイ型PCというかAIとの丁々発止のやり取りも楽しい。このコンピューターにわざと哲学的問題を与えてハングアップさせてしまうやり方などは、機本が人工知能におけるフレーム問題に対して正しい見解を持っているからであろう。これらの小技やガジェットが、作品の世界観のレベルを上げているのだ。
 それにしても、機本伸司の小説に登場する主人公は、どれもかなりアクが強く、脇役達も個性的なのだが、語られるテーマは深く壮大でさえある。否、人類の存亡に係わる深刻な事象だからこそ、軽妙に語らざる終えないのかもしれないのだろう。

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