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【2008/11】人を動かす交渉術

№77 人を動かす交渉術 著者『荘司 雅彦』 平凡社新書 P213頁 ★★★

 交渉術に関する実に実践的な本である。交渉の心理学から入り、最新理論であるのストーリー理論、定番のゲーム理論やクリティカル・シンキングなどを平易に解説してくれる。
 著者は、平均的弁護士の十倍ぐらい精力的にこなす敏腕弁護士だそうで、言わば交渉術のプロ。膨大な経験に裏打ちされた実践方法なので、なかなか説得力がある。今まで漠然としか知らなかった交渉方法を、見事に論理立てて説明してくれる、実用性の高い本である。ま~まさに「知は力なり」で、交渉術を知っていると知らないとでは、交渉結果は大きく異なってくるはず。読みやすく、ポイントのまとめもあるので、常に携帯して使用したい実用的な本であった。

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【2008/11】仲良し小鳩組

№76 仲良し小鳩組 著者『荻原 浩』 集英社文庫 P355頁 ★★★

 デビュー作「オロロ畑でつかまえて」の続編に当たるユーモア小説なのだ。これがなかなか笑わせる、楽しい作品なのだ。やはり荻原浩は「ママの狙撃銃」のようなハードボイルドより、ユーモア路線の方が良いのだ。
 倒産寸前の弱小広告代理店に、暴力団がCIを使ったイメージアップ広告を依頼してきた。担当するハメになった、アル中でバツイチのコピーライター杉山のもとには、さらに別居中の娘まで転がりこんでくる。会社の未来と父親としての意地を賭け、杉山は文字通り走りだすのだが・・・。
 ヤクザネタのユーモア小説と言えば、浅田次郎「プリズンホテル」に、古くは小林信彦「唐獅子株式会社」が有名。ま~これらはヤクザが主人公なのだが、意外と少ない。ま~我輩が知らないだけだとは思うのだが、ユーモア小説自体の絶対数が少ないのは確かだ。その意味でもこの小説は貴重。しかも単なるユーモア小説でもなく、荻原浩らしく、キチンとお涙も入れた再生の物語になっているところが巧い。つまり、ダメ男の主人公・杉本のキャラがなかなか良く、アル中で離婚し小学生の娘とも別居中なのだが、娘が転がり込んできたために、奮起して再起を図るお話にもなっているのだ。
 やはりユーモア小説というものは、いわゆる「笑いと涙」がセットでないとダメだ。「笑い」だけではただの馬鹿話になるし、何も印象に残らない。逆に「お涙頂戴」だけでは我輩の趣味ではないし、エグイ。ま~森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」という例外もあるが、これはユーモア小説とはチョット違う気がする。とにかく小説は、痛快で楽しければ良いのだ。

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【2008/11】ママの狙撃銃

№75 ママの狙撃銃 著者『荻原 浩』 双葉文庫 P388 ★★★

 多彩な作品を上梓する作家だ。デビュー作の「オロロ畑でつかまえて」はユーモア小説。探偵ものの「ハードボイルド・エッグ」、人情ものの「母恋旅烏」などバラエティに富んでいる。ところが今回はサスペンスフルなハードボイルド。しかもあまり前例が無い主婦のスナイパーが主人公なのだ。
 幸福だが平凡な日々を過ごす家庭の主婦・曜子。しかし幼いころにアメリカで祖父から教わったのは、射撃・格闘技などスナイパーの技術だった。その曜子の元に届いたのは、仕事をしてみないかという依頼。一度は断ったものの、家族を守るため、曜子は再びレミントンM700を手にするのだったのだが・・。
 ま~なんというか、作者は前例があまりない意外な組み合わせを試してみたかったのだろうか。出だしは主婦の日常の細々とした描写から入り、次第に暗殺者としての生い立ちや、「仕事」をしなければならない必然性を語り、後半にはその意外な結末を語る。ガーデニングの草花の手入れ方法と、ライフル銃のマニアックな手入れ方法を、同じように詳細に描写し、主婦と暗殺者という両極端な立場を同じようなレベルで描こうとしている。
 殺人者の苦悩を亡霊で表しているところは、伊坂幸太郎の「グラスホッパー」のヒットマンを連想させるような暗さがある。そのためエンターテイメントらしい爽快感はない。「戦闘美少女の精神分析」にあった意見なのだが、『”戦闘”する”美少女”という矛盾した存在は、内面は空虚でなければならない。動機などを与えると現実世界に引き戻される』つまり、どうせ現実にはありえないヒーローの活躍を期待しているのだから、無理やり動機や必然性を与えて現実感を持たせた方が楽しめない、という意味だ。この作品も、家族愛を主体にした苦悩の物語にしたかったのか、スナイパーが主人公のエンタメにしたかったのか、どちらにしても中途半端だという印象を拭えなかった。世の中には高校生探偵が活躍する大沢在昌「アルバイト探偵」シリーズや、ゾンビ探偵が主人公の山口雅也「生ける屍の死」すらある。現実性はどうであれ、もっと徹底して主婦のスナイパーを活躍させて欲しかったのだ。

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【2008/11】解剖男

№74 解剖男 著者『遠藤 秀紀』 講談社現代新書 P216 ★★★

 動物の遺体を解剖し、動物進化の神秘を探る学者が書いた、知的好奇心をかき立てる新書なのだ。「人体 失敗の進化史」という傑作も書いている著者だが、この本は動物の体に焦点を当て、如何に動物の体が驚異的進化を遂げた末に、合理的に構成されているかを熱血あふれる文章で書いている。
 ま~それにしても驚くような話ばかり並んでいるのだ。砂漠に生きるヒトコブラクダは、なんと10ヶ月もの間水を飲まなくても生きていける、牛の腸の長さは40mに達する、などなど、教科書には載っていない面白い話ばかりなのだ。この本の良いところは、どうしてそうなっているのか、どのような仕組みになっているのかを分かりやすく解説してくれるところだ。それにしても、動物の進化の歴史を調べる学問も重要な学問だとは思うのだが、あまり人気は無いらしい。このような動物進化の話題はおよそ聞いたことすらなかった。ま~これは、世界的にも研究者の数が少なく、研究対象も扱いづらいのは確か。著者の言うように、動物の遺体は腐りやすく、自然界の動物ならそれこそあっという間に骨になるため、学者は骨しか調べられなかったようだ。
 様々な困難を乗り越え、著者は孤軍奮闘しながら日々遺体と格闘しているようだ。いわばこの本は、その戦記とも言える。動物進化を熱く語ってくれるこの本は、たとえ動物にあまり興味が無くとも、十分楽しめる新書なのだ。

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【2008/10】野ブタ。をプロデュース

№73 野ブタ。をプロデュース 著者『白岩 玄』 河出文庫 P201 ★★★

 この大ベストセラー『野ブタ。』は、今という時代を活写する、ほろ苦い学園青春小説なのだ。この作品で「文藝賞」という新人作家の登竜門を受賞した作者の白岩玄は、当時専門学校生で若干21歳。だからというわけでもないが、現代高校生の生態をテンポよく、軽快に描いてみせてくれる。
 クラスの人気者の修二は、家族の前でも級友の前でも「素晴らしい高校生」を演じていた。毎朝起きると、修二の「着ぐるみショー」を始めます、というスタンスなのだ。ある日イジメられっ子の転校生の信太が修二に弟子入りを志願してきた。修二は信太をクラスの人気者にすべく、プロデュースを始めたのだが・・・。
 高校生の「俺」が、ほとんど一人語りで進むお話は、軽快で軽薄にギャグを満載し、快調にすっ飛んでいく。前半までだが。今時の高校生の生態を良く知るという意味では、絶好のお話なのだが、後半になるとこれが暗転する。『野ブタ。』のTVドラマもタマタマ観ていたのだが、あまりにも異なる展開にビックリした。ま~TVドラマの方は、小説から設定だけ借り、アイドルタレントを出演させているのでハッピーエンドしないわけにもいかなかったのだろう。
 逆にこのような展開だからこそ、まっとうなインパクトのある小説として成り立っているのだ。自分を演じるという『仮面性』は古典的なテーマだが、政治でも犯罪でも何でも『劇場化』してしまう現代だからこそ、現代的テーマなのだとも言える。ましてや学校生活を『プロデュース』するという発想は、いかにも今風だ。それにしても、このラストシーンは賛否が分かれるはず。いったい現役の高校生がこれを読むと、どう感じるのだろう。逃げたとのか、新たに立ち向かったのか、それとも世代によって意見が分かれるのだろうか?

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【2008/10】灰色のピーターパン

№72 灰色のピーターパン 著者『石田 衣良』 文春文庫 P310 ★★★★

 ご存知池袋ウエストゲートパーク(IWGP)の六作目なのだ。石田衣良のデビュー作であり、かつ人気シリーズなのだが、既に6冊を超えてしまった。それにもかかわらず、今までに読んだIWGPの中でも傑作の部類に入るお気に入りの短編集なのだ。
 盗撮画像を売りさばく小学生が、不良に脅されマコトに助けを求めてきた。その解決方法とは?「灰色のピーターパン」。自分の兄の足を壊した男の足を、同じように壊してくれという妹の依頼に、マコトはどう対応したか?「野獣とリユニオン」。ロリコン犯罪を疑われた知的障害者を、マコトはどうやって救ったのか?「駅前無許可ガーデン」。池袋の犯罪を徹底的に壊滅しようとする副知事に、実は裏の事情があることを嗅ぎつけたマコトのとった行動とは?「池袋フェニックス計画」。
 白黒をはっきりと付けたがる現代人に、グレーだが皆が納得できる解決方法もあるのだ、というマコト。相変わらずトラブルを素晴らしくスマートに解決してくれるところが嬉しい。マンネリだと言う批判も何のそのと、1作1作が非常に完成度の高い作品だと我輩は思う。最新の風俗を貪欲に取り入れ、現代社会の闇ともいえる箇所をえぐり出し、八方丸く治めるシリーズは、現代の水戸黄門なのだ。今回はあまりグロいシーンも無く、「Gボーイズ」のキングも、ヤクザのサルもキチンと活躍する万人にお薦めの現代人情話なのだ。

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【2008/10】イントゥルーダー

№71 イントゥルーダー 著者『高嶋 哲夫』 文春文庫 P377 ★★★

 1999年の「サントリーミステリー大賞受賞作」である。原子力研究所の研究員で、原子力学会技術賞を受賞したこともある程のエンジニアが書いたという異色のミステリーなのだ。さすがエンジニアが書いただけのことがあり、原子力や技術に対する真摯な態度は素晴らしい。
 日本を代表するコンピューター開発者に、突然25年前に分かれた恋人から連絡があった。あなたの息子が重体ですと。一度も会ったことが無い息子が追っていた事件を調べるうち、天才プログラマーとして活躍していた息子の恋人ともに、原発建設がからむハイテク犯罪の渦中に巻き込まれていく。
 ITバブルが生じる前の時代に、コンピュータ技術者を主人公に据え、原発の本質的課題をテーマにサスペンスを描いたことはすごいことだ。技術者の心情や職業人としてのプロ意識を的確に描写し、原発のメリット・デメリットを冷静に論じれる力量は並ではない。さすがエンジニア作家である。
 エンジニアと言うか理工系出身の作家が、最近特に活躍しているように見受けられる。昔はSF作家でさえ文学部出身だった。日本を代表するSF作家である小松左京も、たしか京大のイタリア文学部出身だったはず。医学部出身の作家は以前からいたが、医者が主人公であることが多い程度で、それほど文系作家と作風の違いは無い。しかし知っている範囲では、国立大工学部助教授だった『森博嗣』や、東北大学機械系の特任教授の『瀬名秀明』の作品は、やはり違う。単にキャンパスが舞台になることが多いと言うレベルではなく、作中で語られる科学や技術に対する考え方、思想、方法論がやはりエンジニアの思考方法なのだ。ま~森博嗣だと初期の『S&Mシリーズ』までが顕著だったが、その後は作風が変化していってしまったのだが・・・。
 とにかく、この『イントゥルーダー』は、エンジニでも充分納得できる、高度な科学技術を題材にしたハードボイルド調サスペンスなのである。

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【2008/10】大人の時間はなぜ短いのか

№70 大人の時間はなぜ短いのか 著者『一川 誠』 集英社新書 P206 ★★★

 年をとると、なぜ時の経つのが早いのか?という誰でも抱く「時間」に関する素朴な疑問を、分かりやすく解説してくれる良書。物理学や生理学はもちろん、心理学や人類の文化的背景にまで言及して「時」に関する最新の学説を紹介してくれる。
 もちろん時間に関して、その様々な謎が今でも全部解き明かされている訳ではない。大昔から多数の研究者が頭を悩ませてきた謎なので、未だにその本質的な問題が解明されてはいない。しかしそれでも最近の脳の知覚に関する研究が進んだ成果から、かなり進歩があったことも事実のようだ。本書では、様々な錯視の例を取り上げ、錯覚から逆に人間の知覚の特性を説明してみせる。
 時間に関しての考察となると、どうしても哲学の分野に入り込みがちで、そうなると客観的事実の積み上げのような科学的手法を使わない場合が多いが、ここでは実験データを示すことで、そのような愚を避けている。が、ま~人間には五感はあっても時間を直接感知する器官があるわけではないので、結局心理学からの説明に頼るしかない。それでも知的興味を十分かきたててくれる非常に面白い新書であった。

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【2008/10】空の中

№69 空の中 著者『有川 宏』 角川文庫 P537 ★★★

 『図書館戦争』でブレイクした有川宏2作目の作品。もっとも『図書館戦争』はまだ文庫化されていないので、我輩は読んでいないのだが・・・、ま~売れているという噂だけは知っているのだ。ということで、とりあえず読んでみたのだが、これが意外になかなかの「中高生にもお薦めの」エンターテイメント巨編なのだ。
 日本の上空で謎の航空機事故が続発。事故調査の結果、高度2万メートルの空域で発見されたのが、不可思議な生物。やがてこの謎の生き物が、日本だけでなく人類をも巻き込む、未曾有の大騒動になっていく。
 ライトノベルとして書かれたようだが、大人が読んでも十分に楽しめる大作。設定は、異種生物とのファーストコンタクトものSF。プロローグは本格的サスペンス巨編を感じさせる出だしで、快調なテンポでストーリーは進む。本格SFなら、異種生物の生態や文化とか、コンタクト方法やコミュニケーションそのものに、主眼が置かれるところ。しかしあくまで主役は2組の男女。女性パイロットとエンジニア、異種生物を育てた男女の高校生のW主役というところもユニーク。これらの登場人物達のキャラがなかなか良く、健全すぎるきらいがあるが、素直に感動できるお話になっている。土佐弁も効果的に使われており、万人に安心してお薦めができる快作なのである。

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