【2008年ベスト】
【文庫】
いや~今年も豊作だった。90冊近く読めたことも良かったのだが、何よりもお気に入りの作家がまた増えたことが嬉しいのだ。まずは、浅田次郎の再発見。かなり前に「きんぴか」シリーズくらいしか読んでいなかったので、エンタメ系の軽めの作家、程度の印象しかなかった。しかし、今年読んだ「プリズンホテル」が、そこそこ面白かったので、「天切り松 闇がたり」を読んでみたところ、これがハマってしまった。実に良いお話なのだ。「霞町物語」も、お見事というしかない傑作だった。
お次は、森見登美彦。デビュー作も結構印象に残ったが、今年文庫となった「四畳半神話大系」と「夜は短し歩けよ乙女」は、キョーレツだ。オタク系大学生のモーソーを、文学的表現にまで昇華させた功績はエライのだ。次作がとっ~ても待ち遠しい作家なのだ。
そして瀬名秀明「デカルトの密室」、「第九の日」。両作品とも精神と肉体をテーマに実にスリリングに仕上がっている傑作SFである。知的興奮をかき立てる、深遠で難解なテーマなのだが、ロボットやAI科学の最新情報を取り入れながら、エンタメとしても一級品の作品である。
しかしこう並べると、人情時代物、青春もの、ハードSF、と見事にバラバラだ。これでは評価基準が分からん!と、言われそうだが、わが輩自身としては、面白ければ何でもアリとしか言いようがない。ということで、これ以外にも面白かったのはたくさんあった。特に日本SFを再発見できたことも嬉しい。谷甲州「パンドラ」とか、機本伸司「メシアの処方箋」を読めたことは素直に喜んでいる。人気作家の恩田陸らしい傑作「木曜組曲」、別の味わいが楽しめる「象と耳鳴り」も素晴らしい。また、ミステリィの傑作としては、柴田哲考「TENGU]をあげたい。これにはさすがに驚愕させられた。地味なのだが印象的なのは、川端裕人「ニコチアナ」。石田衣良IWGPシリーズ「灰色のピーターパン」も、定番ながらもさすが実力者レベルだった。ちょっと異質で尖った感性の辻村深月「凍りのくじら」も新鮮だった。その他だと、坂木司「子羊の巣」は、別に傑作という程ではないのだが、クセになる味があり、結局シリーズ3巻読んでしまった。それにしても、なかなかバラエティに富んだ1年であった。
【新書】
最近は新書ブームが再燃したのか、有象無象の出版社が新書を出してきている。おかげで粗製乱造も極まってきており、ほとんど雑誌感覚のレベルである。もともと教養書だったはずだが、今では誰もそんなことは覚えていないようだ。如何にタイムリーな企画でタイミングを外さず素早く出版するか、にかけているように見える。古くからの読者にとっては、選択肢が増えることと棚割りが増えることは良いのだが、玉石混合どころか石ころばかりの中から、読むに耐えうる本を選ばなければならないのが結構つらい。
ということで、今年は新書類をあまり読めなかったが、とりあえず総括してみた。文庫サイズでも、評論系ならこちらに含めているので悪しからず。
まずは、大塚英志「キャラクター小説の作り方」。この本を最初に挙げるくらいなので今年のレベルは知れたものなのだが、ユニークなのはピカイチ。かなり前から新書で出ていたことは知っていたのだが、改訂されて文庫に入ったのを機会に読んでみたら、これが意外に良かったのだ。大塚英志は我が輩と同世代であり、マンガをサブカルチャーとして積極的に世に送り出した旗手の一人だが、昔は論客というか変人扱いされていたことは、想像に難くない。今でこそマンガやアニメは、首相がセールスするくらいの立派な日本文化に成り果ててしまったのだが、つい20数年前まではいい大人が漫画なんぞ読んでいたらバカにされたもんだ。大塚英志は、そんな時代からマンがを正面から論じ、社会学的分析を試みてきた希有な変人だった。そんな大塚が自らの創作の秘密を公開したのがこの本である。別にライトノベルを書くつもりがなくとも、オタク文化の世界を、垣間見たい人にはお勧めの本である。
「ビックプロジェクト」これは言わば、新書版の「プロジェクトX」。時代は古代から近代までのスケールなのだが、過去の成功プロジェクトを分析し、共通項を探り出していることが成功している。
「大人の時間はなぜ短いのか」は、「時間」というまじめに考えようとすると、手に負えないしろものを、様々な角度から捕まえようとした考察本。理系でなくとも面白いはず。
「ラーメン屋vs.マクドナルド」は、手垢のついた日米比較文化論ではなく、新鮮味のあふれたタイムリーな経済本。
「解剖男」は、情熱溢れる動物学者の、驚異の動物本。ミステリィではないので注意されたい。
【YA】
YA(ヤングアダルト)という単語は結局定着しそうにないが、とにかく中高生向けの小説が対象。さすがに、いわゆる「ラノベ」までは手を広げていないが・・・。
森絵都「アーモンド入りチョコレートのワルツ」これはもう、古典的スタイルの児童文学の傑作。昔は子供だった人も、ぜひ読んでもらいたいもんだ。
五十嵐貴久「1985年の奇跡」現代的なお笑い系スポコンだが、素直に感動できる。中高生なら喜んでくれそうの作品。
米澤穂信「氷菓」古典部シリーズ第1弾。デビュー作の初版が、いわゆるラノベのレーベルで出されてしまった不幸な小説。しかし埋もれることなく自力で脱出。やっと日の目を見せて今や注目の作家になれたのは、実力があったからだ。第2弾「愚者のエンドロール」といい、アイデアが素晴らしいのでジュニア向けとは言い難い。常に新作が気になる作家なのだ。YAと一般向けのビミョーな境にあるのが、白岩玄「野ブタ。をプロデュース」苦い読後感を残すが、青春ものは甘ければよい、というものではないはず。一読する価値は高い。
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