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【2009/5】ヤンキー進化論

№27 ヤンキー進化論 不良文化はなぜ強い 著者『難波 功士』 光文社新書  300頁 ★★★

_  いわゆる「ヤンキー」と日本で言われている「人種」の文化論である。この手の切り口で論じている本もユニークなので、思わず手にとってしまった。ま、社会学系の新書の場合は、前例の少ない土俵で勝負することが必勝パターンであることは確かだ。その意味において、最初の関門は突破していると言える。
 最近の新書としては労作の部類で、想像していたよりはるかに網羅的、系統的に書いてある。企画を思いついてから、数ヶ月で上梓するような安直な流行のパターンではない。単行本が売れない「新書ブーム」の中で、とにかく下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、的な粗製乱造の新書販売合戦の時代なので、このようなタイトルだと、一見するとキワモノ的企画にも見えてしまう。しかし、読んでみると意外にも学術的な論じ方なのだ。ま~キワモノ的テーマに対して、大まじめに取り組んだバカバカしい本という見方もできるのだが・・・。
もっとも、アニメやゲームのようなオタク系文化も、最初は誰もまじめに取り上げようとはしなかった。それこそ90年代では、このようなサブカルチャーはまともな学者なら見向きもしなかったはず。それが2000年代になると、オタッキーな学者が増えてきたのか、このての学問が社会的にも認知されたこともあり、一気にオタク文化が研究対象になってきたようである。
 いわゆる「ヤンキー」が、単なる一時的な風俗なのか「ヤンキー文化」と言えるほど持続性があり一般的に認知された「文化」かどうかは、我が輩には分からない。しかし、この著者が述べているように、もしかしたら世界的にみても労働者階級に一般的に見られる普遍性のある「文化」なのかもしれない。このように膨大な資料をバックに系統立てて説明されると、もしかすると金脈を掘り当てたのかもしれない、と思わせるほどの労作であった。

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【2009/4】勇気凛凛ルリの色

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№23 勇気凛凛ルリの色 著者『浅田 次郎』 講談社文庫  319頁 ★★★

№24 勇気凛凛ルリの色 四十肩と恋愛 313頁

№25 勇気凛凛ルリの色 福音について 350頁

№26 勇気凛凛ルリの色 満点の星 314

 何ともはや楽しいエッセーだ。ここ半年で浅田次郎の著書を多数読んできたが、どれもこれも非常に楽しめた。しかも、人情時代劇・痛快活劇・サスペンス・ギャグ満載の任侠もの・青春物語・等無節操なほどバラエティに富んでいた。
 1994年から4年間、週間文春に連載されたエッセーは、まだまったくもって売れない無名の時代から始まり、やがて新人賞を受賞、さらに直木賞も受賞し売れっ子作家になっていく過程で書かれている。そのため作家の裏話的な話題が満載で、有名作品・話題のベストセラーがどのように書かれたのかがよく分かる。
 ま~それにしても、この浅田次郎という作家はユニークだ。作家という人種はどのみち奇人変人の類が大半なのだろうが、この浅田次郎は自衛隊出身という経歴からしてかなりの変わり種なのだ。浪人して高卒のまま自衛隊に入隊し、怪しげな金融ブローカーを経て40歳を過ぎてから作家になったという人生経験が、バラエティに富んだ作品に繋がっているのだろう。
 この「勇気凛凛」は、基本は露悪趣味の自虐ネタ満載お笑いエッセーなのだが、週刊誌に載せているのでタイムリーな話題も多い。オウム事件や沖縄米軍基地問題、血液製剤事件、山一証券の破綻などなど、重大事件への言及も多い。かつては日本人なら誰でも知っている話題なので、エッセーでは何の説明もなくいきなりその話題に入るのだが、ほんの十数年前に起きた出来事でさえ、今では思い出すのに苦労する事件ばかりだ。時代が過ぎ去るのがいかに早いかを痛感してしまった。
 この連載エッセー集は、ハゲ・デブなどの自虐ネタ、事件や事故を扱う時事ネタ、そして創作活動の苦労や自身の過去の書いた作家生活ネタ、で構成されている。ま~エッセーなので何でもアリなのだが、さすがに最後の方は息切れがしてきて、マンネリ化になりそうだった。ここで打ち止めなのは致し方がないだろう。とにかくひたすら楽しい、いち押しエッセーなのであった。

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【2009/3】秋季限定栗きんとん事件

№21 秋季限定栗きんとん事件(上) 著者『米澤 穂信』 創元推理文庫  254頁 ☆☆☆

№22 秋季限定栗きんとん事件(下) 242頁

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Photo_2  待ちに待った米澤穂信「小市民シリーズ」の第3弾なのだ。『春期限定イチゴタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』と、日常の謎だけで充分楽しませてくれる希有なシリーズなのだ。今回も最後まで騙してくれる、レベルの高い青春ミステリィに仕上がっているのが嬉しい。
 本屋の店頭でこの本を見かけると、チョット見た目は、ほとんどライトノベルのように見えてしまう。装丁というかイラストや、タイトルが「ラノベ風」なのでしかたがないのだが、版元が創元社と気がつかないと、大量のラノベに埋もれそうで、ファンとしてはいささか心配になるのだ。米澤の同様な人気連作『古典部シリーズ』は、角川文庫から出ているが、装丁は明らかに大人をターゲットにしているのとは対照的だ。
 ま~、お話の設定も高校生が主人公で、デートやら受験勉強の描写が中心なので、いわゆる青春小説の体裁を備えており、見かけは中高生向けと言ってもよいのだ。しかししてその実体は、大人が読んでも充分読ませる仕掛けがあり、中高生だけに読ませるのでは、あまりにもったいないのだ。
 今回は、シリーズ初の上下巻に分冊された長編となったが、それにしてもわざわざ分冊するほどのボリュームではない。上下巻合わせても500頁程度だったら、普通は分冊にしないもんだ。京極だったらたとえこの倍の1000頁あったとしても、1冊にしたはず。ま~創元推理文庫の書き下ろしシリーズなので、営業上の理由だろうが・・・。
 で、せっかく長編になって楽しみが増えたのかというと、実はそれほどでもない。いわゆる「日常の謎」の数が、長編に見合った分あるわけでもなく、バスを止めるためのボタンを誰が押したか、といったドーデモいいようなレベルの謎がいくつかある程度。メインは放火犯は誰で、どうやって捕まえるか、が主たる謎になる。トーゼンのようにいくつかドンデン返しがあるのだが、やはりこれが上手い。しかし出す出すと言って、さんざん待たせた
割には・・・、なのだがこのシリーズのレベルは維持している。さすがにこのシリーズの設定で次作は苦しいが、貴重な「日常の謎」のポリシーは死守してもらいたいものだ。

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【2009/6】きつねのはなし

№20 きつねのはなし 著者『森見 登美彦』 新潮文庫 323頁 ★★★

Photo  ユニークなラブコメ・ファンタジーで大人気・森見富美彦の新作短編集。最近は、朝日新聞の夕刊に、『聖なる怠け者の冒険』という連載小説まで始めるほどメジャーになってしまったのだ。今回も舞台はいつもの京都だが、意外なことに「奇譚集」なのだ。
 古道具屋でアルバイトしていた青年が、奇妙な古屋敷を訪れると、そこには異様な老人が待ち受けていた。そこで起きた怪異とは・・「きつねのはなし」
 本好きの先輩の下宿に入り浸り、先輩の愉快な経験談を聞くのが好きだった学生は、やがてある事に気づく。「果実の中の龍」
 高校生の家庭教師をしていた私は、深夜に何度も奇妙なケモノに出会い、やがて・・・「魔」
 祖父の通夜の晩、男たちで酒宴をしていると深夜”家宝”を携えた女が現れた。「水神」
 どれも京都を舞台にし、大学生が主人公の作品ばかり。その点では、デビュー作『太陽の塔』『四畳半神話大系』から大人気『夜は短し歩けよ乙女』まで、今まで読んできた森見の過去の作品は、すべて同じ舞台設定である。(注:出版は『・・乙女』より『きつね』が先)ま~森見はまだ20代・失礼!今年30歳になったばかりだし、京大生だったので、その方が書きやすかったのだろう。また、千年の都である京都は、その存在自体が幽玄な雰囲気を醸し出し、絶好な舞台を演出してくれるのも理由のはず。
 さらに、この京都を舞台の中心に据えて、活躍しているメジャーな現代作家は、意外なことに少ないことも、計算しているのかもしれない。最近流行のホルモー「万城目学」ぐらいしかパッとは思いつかない。(といっても、森見と同じ京大出身というだけで、今は東京在住なのだそうだが・・)もちろん、京都を舞台にした作品は数多くあるのだが、住んでなければ分からない事細かな裏通りの描写や空気感は、在住の作家の方がさすがに強い。
 それにしても森見が奇譚集ときたか。森見ファンである我が輩としては、森見にはもちろん「ラブコメ・ファンタジー」を期待していた。なので、読み初めてみて、二度ビックリ。ラブコメの対局のような怪奇譚だったことと、「森見体」とでも言いたくなるほどユニークで楽しい文体が影を潜め、折り目正しい端正な文体で書かれていたことだ。
 奇譚集と言っても乙一のようなホラー系とは異なり、京極の怪談話ほど怖くもない。村上春樹『東京奇譚集』のように都会的スタイリッシュさはないが、荻原浩『押入れのちよ』ほど後味は悪くはない。京都という幽玄の都を主人公にした、ごく良くできた怪奇譚なのだ。ま~森見にとっては、ラブコメ作家のラベルを貼られそうだったので、そこから脱却しようとしたのだろう。デビュー四作目なので、作家としての幅を示すべき時期だったはず。極道作家としてデビューした浅田次郎も確か四作目辺りで『日輪の遺産』という歴史サスペンス巨編を発表することで、作家としての力量を誇示していた。
 ま~これは我が輩の勝手な想像だが、森見はまだまだ前途有望な若手作家なので、出版社のベテラン編集者がつき、上手く方向性を誘導してくれているのかもしれない。もしそうなら益々バラエティに富んだ作品が生まれてきそうだ。しかしデビューからの森見ファンとしては、やはり可愛らしくもファンタスティックなラブコメ路線は今後も踏襲して欲しいもんだ。そうしてくれないと、あの大好きな「森見体」の文章に出会う機会が無くなってしまうからだ。直木賞に色気を見せずに、ひたすらアホなラブコメを期待している我儘な我輩であった。

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【2009/6】アニメ文化外交

№19 アニメ文化外交 著者『櫻井 孝昌』 ちくま新書  245頁 ★★★Photo_2

 いや~なかなかビックリするような内容の本である。いままでにもオタク系の新書はかなり読んできたので、マンガやアニメに関して比較的詳しいと自負してきた。また、以前「かわいい論」なども読み、欧州ではかなり日本製アニメがもてはやされ、「KAWAII」が世界的な言葉として普及していることの認識もあった。しかし、現在の世界の実体はそんなレベルをはるかに凌駕しているのだ。「アニメ」とは日本製アニメーションを示す世界共通語であり、スペインでは数万人を動員するアニメイベントが年に3回もある。毎年パリで開催される「ジャパンエキスポ」に至っては、昨年は何と14万人も動員したそうである。欧州だけのブームではなく、中国・韓国はもちろん、ミャンマーやベトナム、カンボジアなどのアジア各地まで、アニメの認知度は著しいのだそうだ。それにしても、あの超保守国であるサウジアラビアでさえ、ベールに隠れた女性の間では、「ONE PIECE」「NARUTO」「BLEACH」「鋼の錬金術師」のファンが多数存在する、というのだから驚くしかない。
 最近NHKが、毎週土曜の夜に「東京カワイイTV」という番組を放送している。内容はアニメではなく、「かわいい」がキーワードのファッション中心の番組。世界で「なんちゃって制服」や「ゴスロリ」が流行っていて、原宿が世界の中心地!みたいな話が多い。面白いというか興味深いので、毎回チェックしているのだが、ロシアにまで「かわいい」が知られているのだそうだ。これらの現象もアニメが大きな影響を与えているのは間違いない。
 それにしても、これほど日本製アニメが世界を席巻しているとは知らなかった。なので普段は腰の重い外務省までが、アニメを日本の外交ツールとして有効利用しようとまで考えたようだ。ところが今、ちょうど今年度予算に入った「アニメの殿堂」構築費用117億円が無駄使いだと一部議員から批判を受けている。せっかく世界に誇れるアニメ文化を、世界に向けて発信しようとする施設に対して、このような事情も知らない輩が非難する資格はない。景気対策と称して多額のバラマキ予算の中にいつの間にか紛れ込ませたやり方は誉められたものではない。しかしま~こんな時でもないと文化行政に予算が付くわけがないのだから、ドサクサに紛れて予算を組んだ担当者の手腕は大したもんである。
 とにかくだ、この新書の出来は置いといて、内容は注目すべきである。著者が世界各国を巡って、アニメ大使として講演をしたのは、昨年の事。まだホットな情報なのだ。新書が、ほとんど雑誌のように素早く出版される事は珍しくないが、外務省が大使を巻き込んでアニメ普及に積極的に動いている事実は画期的だ。それにしてもマンガ好きだと公言する首相が出現したことが、潮目を変えたのだろう。いろいろとバカにされることが多い麻生首相だが、唯一このアニメを巡る環境を変えたことは、歴史的快挙と評価すべきである。将来の日本は、コンテンツが文化的にも経済的にも牽引役となる可能性を秘めているのだ。この新書は、この事実を世間広く知らしめるパワーを持っている。

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【2009/5】ひとがた流し

№18 ひとがた流し 著者『北村 薫』 新潮文庫  397頁 ★★★

Photo_3  女性を描かせたら当代一流の作家・北村薫が朝日新聞に連載した長編小説である。子供の頃からの友人である、千波・牧子・美々の三人の女性。過酷な運命に翻弄されながらも、流れていく人生の中で、互いに支え合い絆を深めていく、そんなお話なのだ。
 相変わらず、まるで古典を読んでいるかのような、端正で美しい文章が続く。前半は、それこそ日常生活の細々とした事柄を、丁寧に描くことで、女性達の生き方や性格を浮き彫りにし、後半は病魔に襲われた千波の葛藤とそれに対する友人達の思いやりが、絆の深さ表している。人が人として生きるために本当に必要なのは、他の人との深い絆ではないのか。それが家族であったり、親友なのだ。そんな作者の思いがストレートに伝わる、友愛がテーマの物語。
 全国ネットの女性アナウンサーという花形職場にいながらも、凛とした生き方を貫き、一切の弱みを見せない千波。ガードが堅すぎて図らずも独身を通してきたが、お節介な親友のおかげで、最期の最後に孤独から抜け出すことができた。そんな華やかだが、孤独な女性を中心に、様々な生き方を歩む女性たちの人生を、心優しくたおやかな作品なのだ。

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【2009/4】少女七竈と七人の可愛そうな大人

№17 少女七竈と七人の可愛そうな大人 著者『桜庭 一樹』 角川文庫  284頁 ★★★

Photo_4  今、話題の直木賞作家・桜庭一樹の作品である。相変わらず不思議な感覚の小説。北海道の旭川に住む、孤独で一風変わった美少女「七竈(ななかまど)」を巡る物語なのだ。
 奔放な母親のおかげで私生児として生まれた高校生の七竈。彼女は、町では知らぬもののない程有名な美少女だった。あまりに美しいのと出自のせいで、学校では孤立し、老いた祖父と狭い世界のなかで、ひっそりと二人暮らしをしていた。しかし世間は、美少女をほっといてはくれなかった・・・。
 主人公が美少女のお話は多い。というか小説に登場する女性の大半は美女だろう。ま~これは作家の性別には関係なく、なぜかお決まりのようだ。しかも美女であろうと醜女であろうと、話の展開に大半は無関係。ということは読者サービスのつもりなのか。
 しかし、このお話は違う。あまりに美しい顔(かんばせ)が故に、孤独でいることさえ許されない、一人の少女を巡るお話なのだ。
 語り手が、奔放な母親、少女、飼い犬、母親の友人、腹違いの兄、元アイドル歌手のスカウト、と次々と入れ変わっていく。それにつれ七竈の周辺が次第に浮き彫りになっていく。飼い犬までが語り手になることがユニークだが、雪に閉ざされた狭い町で語るトーンはどれも等しく静謐だ。少女がその希有な美貌に振り回されながらも、幸運を掴めるかどうかは最後まで定かではない。因襲に絡み捕られた狭い町から抜け出すことで、わずかに希望が見える程度なのだ。
 ま~いわば贅沢な悩みを抱えた少女のお話なのだが、奇妙な魅力を携えている小説。女性にとっては夢のような憧れの設定ではあるが、一歩間違えるとありふれたシンデレラストーリーになってしまう恐れもあった。しかし桜庭は、よくあるサクセスストーリーなどにせず、淡々とした語り口で、数奇な運命に身を委ねる母とその娘を描いている。不思議な読後感が残るお話であった。

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【2009/3】The MANZAI 5

№16 The MANZAI 5 著者『あさのあつこ』 ピュアフル文庫  209頁 ☆☆☆

 あさのあつこの大人気シリーズ『The MANZAI』」の第五巻である。あさのあつこは、『バッテリー』で一世風靡したが、我が輩としては、こちらのシリーズの方が、気に入っているのだ。
 中学三年生の冬休み。小柄で内向的な瀬田歩と、大柄で明るい秋本貴史のコンビは、相変わらずボケとツッコミをしあいながら、最後の中学校生活を迎えていた。文化祭での「チーム・ロミジュリ」がウケて以来、人気者の二人と仲間たちは、初詣の最中に大騒動に巻き込まれ・・・。
 あさのは、このシリーズで『バッテリー』と同じ世代の子供達を描いているのだが、『バッテリー』の常にピリピリと真剣勝負のような感性と大きく異なり、この作品ではホンワカとしたユーモア感覚が信条になっている。ポンポンと軽快で、掛け合い漫才のような会話に、すぐに助け合う仲間達。主人公の瀬戸歩は、不幸な過去のため繊細で内向的になっていたが、秋本貴史や仲間達との出会いにより次第に成長していくのだ。
 『バッテリー』の主人公は、心を開かない孤高の天才だが、瀬戸歩は仲間なしでは一人では歩けない。野球の天才とシロート漫才。対照的な二人の中学生。あさのは、どちらに希望を見いだしているのだろうか。どちらに未来を託しているのだろうか・・・。
 時代もあるのだろう。「スポ根」世代のあさのは、中学生なら当然「スポ根」でしょ、という想いがあったはず。しかし時代は移り「スポ根」は流行らない。やっぱり時代は「お笑いブーム」なのだ。そこはさすが、人気作家あさの。ブームにしっかり乗ってしまうフットワークは機敏だ。その時代の子供達に、しっかり届くスタイルを見つけるのが上手い。
 歩くんたちも次は高校生。どんな進路を歩むのか。バラバラになるであろう仲間達とはどうなるのか。「ロミジュリ」コンビの行方は?まだまだ続くであろうこのシリーズに、今後も期待しているのであった。

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【2009/3】キャラねっと完全版 愛$探偵ノベル

№15 キャラねっと完全版 愛$探偵ノベル 著者『清涼院 流水』 角川文庫  603頁 ☆☆☆

 いや~ライトノベルだったんだ。知らなかった。噂の清涼院流水(せいりょういんりゅうすい・それにしてもふざけた名前だ)の作品を、未だ読んでいなかったので、とりあえず目に留まったこの本を読んでみたのだった。巷では衝撃のデビュー作「コズミック」と騒がれていた作家なので、かなり期待していたのだが、???なのだ。いや、決してレベルが低いのではなく舞じょう並のインパクトを期待していたのだが、実に健全な青少年向け"ラノベ"だったので、肩すかしをくらった気がしただけなのだ。最初から"ラノベ"のつもりで読めば、なかなかお勧めの作品であることは確か。オンラインゲームがまだまだ実際に流行る前から、このようなアイデアを次々と繰り出したのだからかなりのアイデアマンだ。
 青少年だけが参加できるオンラインゲーム「キャラねっと」。世界中で大人気のこのゲームは、プレイヤーが3D表示のキャラクターになりきって学校でバトルやクイズで競い合うゲーム。毎晩のようにそこに参戦していた双子の姉弟2人は、ある日突然ゲーム中に事件に遭遇する・・・。
 バーチャル・リアリティ(VR)といえば、一般的には映画『マトリックス』が最も有名か。しかしVRの中で生じた事件を描いたミステリーなら、いくつか名作がある。森博嗣のS&Mシリーズのなかの傑作『有限と微小のパン』とか、岡島二人のミステリー『クラインの壷』だ。両方ともかなり大がかりなVRという設定だったが、なかなかリアリティがあり、ミステリーとしても十分秀抜だった。それに対してこの「キャラねっと」は、3Dとは言え今では珍しくないオンラインゲームの世界。一時かなり評判になり、今では話題にもならなくなった米国製「セカンドライフ」とほとんど同じような設定だ。なので、その世界感には違和感は無い。ただミステリィとしては、謎が弱いので簡単に分かってしまうのが難点。もっとも中高生の読者がターゲットなので、いたしかたがないか。
 それにしても、オンラインゲームのの中で繰り広げられる、学校生活はなかなか楽しそうだ。格闘技やクイズで成績が決まり、進学できるのは当然として、キャラの可愛さを人気投票で競う美少女コンテストは、面白い。読んだ本は角川文庫だったが、コンテストにエントリーした各キャラを、イラスト付きで紹介したり、いかにもラノベっぽい造りだ。これを角川文庫から出すのだから、ターゲットを誰に想定しているのかが不明だが、大人が読んでも楽しめるエンターテイメント本であった。

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【2009/2】KAPPA

№14 KAPPA 著者『柴田 哲孝』 徳間文庫  329頁 ★★★

 あの衝撃的な傑作『TENGU』を書いた作者の処女作。そして心温まる異色の冒険小説なのだ。
 あの『TEDNGU』を読んでしまうと、どうしても比較して地味にも見えてしまうのだが、ま~それはいたし方がない。つまり、ミステリィとして読むと多少緊迫感や切迫感が弱いのだが、逆に悪人がまったく出てこない希有な冒険小説として読むと、非常に楽しめる。
 関東の牛久沼で、釣り人が”河童”に食いちぎられるという事件が発生。地元警察の捜査は混迷し難航してしまった。そこで宿無しのルポライターと老猟師、地元の少年が、事件の謎を解くために活躍を始めたのだ。
 心に傷を負った男たちの、力と知恵を集めたひと夏の冒険談。読後感も悪くなく、著者の生き物の扱いや自然への畏敬の念などには、共感を覚える。しかし、我輩はバス釣りをしたことがないので、もしかしたら釣りのテクニックの的確さや、バス釣り描写の醍醐味を、ほとんど理解できていないのかもしれない。その意味では、釣り好きやアウトドア派の読者なら、とても楽しめる冒険小説のはずだ。

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