【2009/3】秋季限定栗きんとん事件

№21 秋季限定栗きんとん事件(上) 著者『米澤 穂信』 創元推理文庫  254頁 ☆☆☆

№22 秋季限定栗きんとん事件(下) 242頁

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Photo_2  待ちに待った米澤穂信「小市民シリーズ」の第3弾なのだ。『春期限定イチゴタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』と、日常の謎だけで充分楽しませてくれる希有なシリーズなのだ。今回も最後まで騙してくれる、レベルの高い青春ミステリィに仕上がっているのが嬉しい。
 本屋の店頭でこの本を見かけると、チョット見た目は、ほとんどライトノベルのように見えてしまう。装丁というかイラストや、タイトルが「ラノベ風」なのでしかたがないのだが、版元が創元社と気がつかないと、大量のラノベに埋もれそうで、ファンとしてはいささか心配になるのだ。米澤の同様な人気連作『古典部シリーズ』は、角川文庫から出ているが、装丁は明らかに大人をターゲットにしているのとは対照的だ。
 ま~、お話の設定も高校生が主人公で、デートやら受験勉強の描写が中心なので、いわゆる青春小説の体裁を備えており、見かけは中高生向けと言ってもよいのだ。しかししてその実体は、大人が読んでも充分読ませる仕掛けがあり、中高生だけに読ませるのでは、あまりにもったいないのだ。
 今回は、シリーズ初の上下巻に分冊された長編となったが、それにしてもわざわざ分冊するほどのボリュームではない。上下巻合わせても500頁程度だったら、普通は分冊にしないもんだ。京極だったらたとえこの倍の1000頁あったとしても、1冊にしたはず。ま~創元推理文庫の書き下ろしシリーズなので、営業上の理由だろうが・・・。
 で、せっかく長編になって楽しみが増えたのかというと、実はそれほどでもない。いわゆる「日常の謎」の数が、長編に見合った分あるわけでもなく、バスを止めるためのボタンを誰が押したか、といったドーデモいいようなレベルの謎がいくつかある程度。メインは放火犯は誰で、どうやって捕まえるか、が主たる謎になる。トーゼンのようにいくつかドンデン返しがあるのだが、やはりこれが上手い。しかし出す出すと言って、さんざん待たせた
割には・・・、なのだがこのシリーズのレベルは維持している。さすがにこのシリーズの設定で次作は苦しいが、貴重な「日常の謎」のポリシーは死守してもらいたいものだ。

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【2009/3】The MANZAI 5

№16 The MANZAI 5 著者『あさのあつこ』 ピュアフル文庫  209頁 ☆☆☆

 あさのあつこの大人気シリーズ『The MANZAI』」の第五巻である。あさのあつこは、『バッテリー』で一世風靡したが、我が輩としては、こちらのシリーズの方が、気に入っているのだ。
 中学三年生の冬休み。小柄で内向的な瀬田歩と、大柄で明るい秋本貴史のコンビは、相変わらずボケとツッコミをしあいながら、最後の中学校生活を迎えていた。文化祭での「チーム・ロミジュリ」がウケて以来、人気者の二人と仲間たちは、初詣の最中に大騒動に巻き込まれ・・・。
 あさのは、このシリーズで『バッテリー』と同じ世代の子供達を描いているのだが、『バッテリー』の常にピリピリと真剣勝負のような感性と大きく異なり、この作品ではホンワカとしたユーモア感覚が信条になっている。ポンポンと軽快で、掛け合い漫才のような会話に、すぐに助け合う仲間達。主人公の瀬戸歩は、不幸な過去のため繊細で内向的になっていたが、秋本貴史や仲間達との出会いにより次第に成長していくのだ。
 『バッテリー』の主人公は、心を開かない孤高の天才だが、瀬戸歩は仲間なしでは一人では歩けない。野球の天才とシロート漫才。対照的な二人の中学生。あさのは、どちらに希望を見いだしているのだろうか。どちらに未来を託しているのだろうか・・・。
 時代もあるのだろう。「スポ根」世代のあさのは、中学生なら当然「スポ根」でしょ、という想いがあったはず。しかし時代は移り「スポ根」は流行らない。やっぱり時代は「お笑いブーム」なのだ。そこはさすが、人気作家あさの。ブームにしっかり乗ってしまうフットワークは機敏だ。その時代の子供達に、しっかり届くスタイルを見つけるのが上手い。
 歩くんたちも次は高校生。どんな進路を歩むのか。バラバラになるであろう仲間達とはどうなるのか。「ロミジュリ」コンビの行方は?まだまだ続くであろうこのシリーズに、今後も期待しているのであった。

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【2009/3】キャラねっと完全版 愛$探偵ノベル

№15 キャラねっと完全版 愛$探偵ノベル 著者『清涼院 流水』 角川文庫  603頁 ☆☆☆

 いや~ライトノベルだったんだ。知らなかった。噂の清涼院流水(せいりょういんりゅうすい・それにしてもふざけた名前だ)の作品を、未だ読んでいなかったので、とりあえず目に留まったこの本を読んでみたのだった。巷では衝撃のデビュー作「コズミック」と騒がれていた作家なので、かなり期待していたのだが、???なのだ。いや、決してレベルが低いのではなく舞じょう並のインパクトを期待していたのだが、実に健全な青少年向け"ラノベ"だったので、肩すかしをくらった気がしただけなのだ。最初から"ラノベ"のつもりで読めば、なかなかお勧めの作品であることは確か。オンラインゲームがまだまだ実際に流行る前から、このようなアイデアを次々と繰り出したのだからかなりのアイデアマンだ。
 青少年だけが参加できるオンラインゲーム「キャラねっと」。世界中で大人気のこのゲームは、プレイヤーが3D表示のキャラクターになりきって学校でバトルやクイズで競い合うゲーム。毎晩のようにそこに参戦していた双子の姉弟2人は、ある日突然ゲーム中に事件に遭遇する・・・。
 バーチャル・リアリティ(VR)といえば、一般的には映画『マトリックス』が最も有名か。しかしVRの中で生じた事件を描いたミステリーなら、いくつか名作がある。森博嗣のS&Mシリーズのなかの傑作『有限と微小のパン』とか、岡島二人のミステリー『クラインの壷』だ。両方ともかなり大がかりなVRという設定だったが、なかなかリアリティがあり、ミステリーとしても十分秀抜だった。それに対してこの「キャラねっと」は、3Dとは言え今では珍しくないオンラインゲームの世界。一時かなり評判になり、今では話題にもならなくなった米国製「セカンドライフ」とほとんど同じような設定だ。なので、その世界感には違和感は無い。ただミステリィとしては、謎が弱いので簡単に分かってしまうのが難点。もっとも中高生の読者がターゲットなので、いたしかたがないか。
 それにしても、オンラインゲームのの中で繰り広げられる、学校生活はなかなか楽しそうだ。格闘技やクイズで成績が決まり、進学できるのは当然として、キャラの可愛さを人気投票で競う美少女コンテストは、面白い。読んだ本は角川文庫だったが、コンテストにエントリーした各キャラを、イラスト付きで紹介したり、いかにもラノベっぽい造りだ。これを角川文庫から出すのだから、ターゲットを誰に想定しているのかが不明だが、大人が読んでも楽しめるエンターテイメント本であった。

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【2008/11】1985年の奇跡

№79 1985年の奇跡 著者『五十嵐 貴久』 双葉文庫 P399頁 ☆☆☆☆

 とにかく笑えて楽しめるスタンダードなスポーツ青春小説なのだ。やる気の無さだけでは天下一品の弱小高校野球部が舞台。校則がやたら厳しい高校の野球部員達の楽しみは、唯一「おニャン子クラブ」だけだった。そんな野球部に強豪校の豪腕ピッチャーが転校で入部し、さらにお嬢様学校の美人マネージャーまで入ってきたため、部員の目の色が変わった。突然練習に励むようになり、初めて試合に勝てるようにまでなったのだが・・・。
 なかなか痛快で読後感も爽やかな、万人にお薦めできる青春小説だ。ストーリーそのものは、野球マンガにでもよくありがちな展開なのだが、ま~先が読めても、とにかく面白い。努力さえすれば勝てる、みないな単純なスポ根でもないところが良い。(最近最新刊が出たが)あさのあつこの『バッテリー』みないな深刻さはないし、白岩玄の『野ブタ。をプロデュース』のような後味の悪さもない。かといって、お馬鹿な高校生活だけを描いているわけではなく、ラストはなかなか感動的でさえある。い~話なのだ。
 それにしても、この五十嵐貴久という作家は、謎だ。『安政五年の大脱走』という江戸時代の活劇を書いていたので知っていたのだが、まったく異なる作風のお話も書いていたとは驚きだ。デビュー作がホラー作品だというのだから、なかなか多才なのであろう。何はともあれ、中高生にも安心してお薦めできる青春野球小説なのだ。

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【2008/5】クドリャフカの順番

№37 クドリャフカの順番 著者『米澤 穂信』 角川文庫 393  ☆☆☆

 氷菓』『愚者のエンドロール』に続く、待望の古典部シリーズ第三弾。学園青春ミステリィの快作を連発する著者だが、今回もおなじみのメンバーが、賑わう学園祭で起きた連続盗難事件を解決していくお話なのだ。
 奉太郎の通う高校の最大のイベントである文化祭『カンヤ祭』が始まった。奉太郎の所属する『古典部』も参加することになったが、大問題が発生。文集が手違いで大量に印刷されてしてしまったのだ。奉太郎たちが困っていると、学園祭で奇妙な盗難事件が勃発。碁石、タロットカード、水鉄砲が連続して盗まれていたのだ。そこでこの事件を解決して、古典部の知名度を飛躍的に上げ、文集の完売を目指すことになった・・・のだが。
 いや~いいですな、この文化祭の雰囲気。ワクワクしつつも延々と準備をし、待ちに待った当日は騒々しくも、それこそあっという間に終わっていまうのが常だった。そういえば学園祭からの単純な連想なのだが、高橋留美子の傑作コメディ『うる星やつら』の劇場アニメ版『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(押井守の原点であり出世作だったな~)も、学園祭が主役だった。永遠に繰り返される学園祭の前日。永久にくることの無い、奇妙な夢の中の学園祭・・・。
 閑話休題。まったくの脇道でした。その学園ものの王道である学園祭を主役に据え、そこで起こる奇妙な事件を、古典部の宣伝に使ってしまおうという素敵な魂胆。たった3日間での出来事だが、今回は古典部の各メンバーの視点で語られるので、それぞれの思いや内面が掘り下げられ、なかなか読み応えがあったのだ。ミステリィとしての謎そのものはいささか弱いが、ラストはお決まりのドンデン返しもあり、充分楽しめる。殺人事件の起きないミステリィとして、中学生から昔は学生だったはずの大人まで、我輩お勧めの青春小説なのである。

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【2008/2】愚者のエンドロール

№8 愚者のエンドロール 著者『米澤 穂信』 角川文庫 254  ☆☆☆☆

 またまたマイブーム中の「米澤穂信」なのである。今回もなかなか素敵なアイデアのミステリィなのだ。期待に違わず『日常の謎』を中心にした単なる青春ミステリィなどではなく、本格的装いを施した傑作ミステリィとなっている。
 前作「氷菓」に続く、高校生の奉太郎たちが活躍する『古典部シリーズ』の第2弾。文化祭に出展するための自主制作ミステリィ映画が、脚本家のダウンによりラストを撮らないうちに中断してしまった。その映画の中では、廃屋の密室で少年が腕を切り落とされて死んでしまったのだが、犯人も犯行方法もまったくの不明。奉太郎たちは映画の結末探しを依頼され、乗り出すことになったのだ。
 ミステリィの王道『密室殺人』を、映画製作の形式で提供するとはとっても新鮮。殺人事件がまったく出てこない『日常の謎』派作家の米澤穂信が、そのポリシーを曲げずに『密室殺人』を書けたことが、意表をついてうれしい。しかもそのトリックが思ったより斬新なのだ。我輩は30年以上前からのミステリィファンであり、しかもディクスン・カーが最初のお気に入り作家ぐらいの『密室好き』。なので星の数ほどある『密室殺人』を読んできたのだが、それでも「愚者のエンドロール」のアイデアは新鮮で楽しかった。
 京極夏彦は大好きな作家だが、「京極堂シリーズ」のトリックそのものは、ミステリィとしてはほとんど反則技が多い。ま~謎そのものでストーリーを引っ張っていくタイプではなく、妖怪やら宗教やらの薀蓄を語るのが主眼なので、トリック自体に目くじらをたててもしかたがないのだが・・・。その京極に比べれば、この米澤の方がよほど正統派だ。青春ミステリィと銘をうっているが、そんな軽いものでもない。高校生の奉太郎が成長していく様子が描かれるので、青春ものとも言えるのだが、我輩としては純粋ミステリィとして、全人にお薦めしたいのだ。

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【2008/1】アーモンド入りチョコレートのワルツ

№7 アーモンド入りチョコレートのワルツ 著者『森 絵都』 角川文庫 209  ☆☆☆☆

 今の子供達はうらやましい限りだ。なにせこんなにも素敵なものがたりを、読めるのだから・・・。そんな理不尽な嫉妬を覚えるほど、とっておきの短編集。『路傍の石文学賞』(初めて聞く文学賞だな~)を受賞している。
 シューマン「子供は眠る」、バッハ「彼女のアリア」、サティ「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。名曲をモチーフにした短編が3つ。毎年少年達だけで海辺の別荘で夏を過すお話。旧校舎の音楽室で出会った不眠症の少年、少女の淡い恋を描くお話。ピアノ教室に出現した奇妙なフランス人のおじさんと、少女達の出会いを描くお話。どのお話にも、どこかでピアノの調べが聞こえてくる、優しくてせつない物語ばかり。誰でもどこかで必ず遭遇する、心ときめく出会いと切ない別れ、そんなお話たち。
 中高生向けだからといって、この本を子供達だけに読ませたのでは、あまりにももったいない、昔子供だった人にはムネキュンなお話ばかりなのだ。我輩の世代だと、少年少女世界の名作文学なるものは、総じて暗かった。それこそ「路傍の石」とか「ああ無情」とか、「小公女」とか、みんな暗い話ばかりだったイメージがある。だいたい欧羅巴の文学というものは、・・・・・。とか、今頃になって文句を言っても始まらないのだが、ま~こんな素晴らしいお話が、あっても当然のように読んでしまう子供達は、素直にうらやましい限りなのだ、とおじさん世代は感慨を覚えたのであった。

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【2008/1】氷菓

№6 氷菓 著者『米澤 穂信』 角川文庫 217  ☆☆☆☆

 今、人気沸騰中!(我輩だけだが)米澤穂信のデビュー作であり、『角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞受賞』(な、長すぎるタイトル・・・)であり、かつ古典部(未だに活動内容が不明の部)シリーズの第1弾である、青春ミステリィなのだ。と、ま~いろいろと修飾語があるわりには、無名の作品のようだ。今は、角川文庫から出ているので我輩でも入手できたのだが、最初は『角川スニーカー文庫』というYAというか、ライトノベルとして売り出されていた。これでは一般人には目にとまるはずもなく、この名作もしばらく埋もれていたようだ。それが「春季限定いちごタルト事件」で注目されてから、芋づる式に他の作品まで売れ始めたので、『角川文庫』に納まったと、我輩は勝手にニランデいる。
 前置きはさておき、この「氷菓」はこんなお話なのだ。何事にも積極的に関わらない主義である高校生の奉太郎が、姉の命令で廃部寸前だった古典部に入る。そこで、この省エネ少年と好奇心旺盛な少女が遭遇する、いつのまにか密室になった教室、毎週必ず借り出される本、あるはずの文集をないと言い張る少年、などの謎を解決していく。そして、少女の叔父が関わった三十三年前に起きたある事件の真相に迫っていくのだった。
 一切人が傷つかない、いわゆる『日常の謎』タイプの作品。ミステリィといえば殺人事件がお決まりなのだが、最近はこの手のタイプも流行っていて、けっこう我輩もお気に入りなのだ。大半は謎といえるほどのものでもないのだが、この作品では主人公達のキャラがタッテいるのでなかなか楽しませてくれる。しかも最後に「氷菓」の謎があるので、この作品に彫りの深い陰影を与えてくれている。この作者は若いが、「さよなら妖精」などもそうなのだが、意外と重いテーマを潜ませ、一見お気楽な作風を最後に一転させ、深みを与えるのがとても上手い。主人公の少年の性格が、どの作品でも同じなのはご愛嬌だが、脇役達のキャラがそれぞれ個性的なのも楽しい。「秋季限定XXX」も楽しみだが、この古典部シリーズもなかなか期待できる大人が楽しむ青春シリーズなのだ。

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【2007/12】さよなら妖精

№63 さよなら妖精 著者『米澤 穂信』 創元推理文庫 360頁  ☆☆☆☆

 隠れた人気作家『米澤穂信』。ま~最近は年間ベストミステリーに連続して選ばれているくらいなので、隠れているわけではないが・・・。とにかく「春季限定いちごタルト事件」や「夏季限定トロピカルパフェ事件」というユニークな傑作ミステリーで有名なのだ、というか我輩もこれで知ったのだ。いわゆる「日常の謎」派なのだが、これらのミステリーには読んだ人にしか分からない、独特の風変わりなセンスがあり、けっこう気に入っている作家なのだ。
 雨宿りをしていた外国人少女マーヤと、偶然出会った高校生のカップル。何にでも興味津々なマーヤにとって、日本の日常生活は謎だらけだった。何事にも関心がもてない男子高生と、何事にも超然たる態度の女子高生は、ヒョンなことからマーヤを助けることになったが、次第に純真なマーヤに惹かれていく。やがてマーヤは帰国するのだが、消息不明になってしまう・・・。
 帰国したマーヤを、日本の友人たちが手がかりを求めて回想する形式で話は進む。どこの国から来てどこに帰ったのか、マーヤの謎を中心に推理は進み、やがて哀しい結末を迎えてしまうのだ。
 大きな事件も冒険もあるわけでは無く、日常的な高校生活が淡々と描かれているだけなので、中高生向けの青春ミステリーに分類されてしまいそうだが、そんなレベルではない。一人の少年が、自分の存在や社会に対して覚醒し、やがて青年へと脱皮する姿を爽やかに描き出す、ほろ苦い青春小説なのだ。お話全体にわたる謎でストーリーを引っ張っているが、日常の細々とした謎は難易度が高く、ミステリーとしてはいまひとつ。しかし微笑ましい国際交流を軸に、恋や友情を丁寧に描いた青春小説として、大人にも読んでもらいたい。

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【2007/11】THE MANZAI 4

№56 THE MANZAI 4 著者『あさのあつこ』 ピュアフル文庫 216頁 ☆☆☆

 人気のThe MANZAIシリーズも1巻2巻3巻と重ねとうとう4巻目。今度は文庫でいきなりの書き下ろしなのだ。我輩のように最初から文庫で読んでいる読者は、気にもしてもいなかったのだが、単行本から読んでいるコアなファン達にはなかなかつらいものがあるようだ。ま~それはさておき、今回は文庫の書き下ろしだからというわけでもないのだろうが、いつものメインイベントはない。どちらかというと、後日談的な主人公「歩」の地味なモノローグが続く。中学生の「歩」は、内向的で引っ込み思案なはずだったのだが、強引な秋本の誘いを相変わらず断りきれず、漫才コンビ「ロミジュリ」に次第に傾倒していくのだ。
 初々しい中学生の恋や友情を、軽快なおしゃべりで笑いとペーソスを撒き散らしていくのは相変わらず上手い。不可思議な大人の行動に対して、真剣に悩みながら何とか切り抜けていこうとする主人公達の態度は、昔は子供だったはずの大人たちに反省を促せる力を感じる。こんなことを中学生時代は考えていたのかな~と。前3巻と比べると確かにテーマやその深さが物足りないのかもしれないが、それでも中学生の子供を持つ親としては、なかなか心に沁みるお話なのだ。

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【2007/9】カラフル

№47 カラフル 著者『森 絵都』 文春文庫 259頁 ☆☆☆

 児童文学の名手である森絵都の産経児童出版文化賞受賞作品。生前の罪により死んだ主人公は、あの世で抽選に当選し、下界で再挑戦することになった。ところが自殺したはずの中学生の体に戻った「僕」の家庭は、最低の家族だった・・・。
 「つきのふね」もそうだが、テーマは重くつらい。しかしこの作品は、全体がファンタジー設定でしかも軽く爽やかな描き方のため、一気に簡単に読めてしまう。中高生あたりの読者を想定しているようだが、大人が読んでもなかなか人生を考えさせられるお話なのである。社会は様々な人々がいろいろな考え方を持ち生活しているのだ、というごく当たり前の事実を、優しい語り口で語ってくれるので、ヤングアダルトから大人までお薦めできる良品なのだ。

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【2007/1】NO.6♯1

№5 NO.6(ナンバーシックス)♯1 著者『あさのあつこ』 講談社文庫 213頁 ★★

 「あさのあつこ」のなんとSFである。徹底的に管理された未来都市で、エリートとして育てられた少年が、ある日「ネズミ」と名乗る少年を助けた時から運命が急展開していく・・・。というシリーズものの第一巻なのである。
 主人公は相変わらず「あさのあつこ」の大好きな少年。舞台が未来都市だというだけで、エリート少年が管理社会に徹底的に抵抗する「ネズミ」を媒介して成長していく、といういつもの枠組みはいっしょ。著者のファンには好評のようで、第五巻まで出版されているようである。
 この「あさのあつこ」の少年ものは我輩も結構好きで、『バッテリー』『THE MANZAI』などのシリーズものは息子共々お気に入りなのである。しかしこの小説は、従来ターゲットとしていた読者層の好みに合致しているとも思えず、結構残酷な描写があり、中学生の息子も続きは読みたくないという感想であった。実際、著者のあとがきには、「現実世界の残酷さや放漫さに負けないような小説を書きたかった」と言う趣旨の発言があるので、このような小説になったのは、いたしかたがない。
 ま~テーマはどうであれ、「あさのあつこ」ブランドを外してこのSFを読んだ場合だと、水準にギリギリ達したかというレベル。つまり未来SFとしては、いろいろと気に入らない場面が多い。大長編SF冒険小説の導入部を読んだだけで、偉そうな事もあまり言えなのだが、構築された世界観に説得力がない。つまりリアル感がない。だいたい2013年という時代設定がおかしい。2003年に出版しているのでわずか10年後の話にしているのだが、2013年にこんなレベルで個人を徹底的に管理することは技術的に無理。また、コンピューターで徹底管理できる巨大都市を建築するのには少なくとも数十年はかかるはずだから、すでに建設を開始していないと間に合わない。数百年後ぐらいに設定しておくのが無難。また、本物のネズミと区別ができないほど活動できる知性を持ったロボットなど実現の目処さえ無いのに、個人が作ったなど論外。このあたりは重箱のスミというレベルではない。おそらくSFというジャンルに慣れて無いためなのであろう。ヘタに現実世界との中途半端な折衷世界にするのではなく、何でもありの「剣と魔法の世界」にした方が、よほどその世界観に入り込めると思うのだが、どうだろう。
 また、「管理社会への抵抗と反逆」という全体のスタイルも、あまりにも古典的。オーウェルの「1984」やブラッドベリの「華氏451」を持ち出さなくとも、映画だと定番で「未来世紀ブラジル」から最新作「イーオン・フラックス」まで多数作られてきている。
 この小説は、舞台設定の緻密さが売りのSFや、追いかけっこだけを楽しむ冒険活劇ではないと思うので、このあたりの作品スタイルをあげつらうべきではないのかもしれない。あくまで主人公の少年が、非道な社会に抵抗し、戦い、成長していく架空の都市の冒険ファンタジーなのであり、そこを評価し、楽しむべきなのだろう。

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【2006/12】The MANZAI 3

№99 The MANZAI 3 作者『あさのあつこ』 ピュアフル文庫 235頁 ☆☆☆☆

 男子中学生が主人公の人気シリーズ第三弾。相変わらず漫才コンビを拒否し続ける主人公の「歩」と、口説き続ける「貴史」を軸に、友人達と共に中止になりそうな夏祭りを、大人を巻き込んでまで存続させようと奮闘していく。中学生同士の掛け合い漫才風の、あくまで軽快なおしゃべりだけでお話は快調に進んでいくのである。
 登場人物は、なぜか片親しかいない中学生達ばかりで、しかもいわゆる良い子しか今回は登場しない。だからといってオキラクで軽めの子供だましのお話かというとそうではない。内向的で目立つのが嫌いな「歩」が、かなり強引で明るい友人達と交流することで次第に成長していく様が丁寧に描かれていく。
 我が家の中学1年生の息子が、何と自ら買いしかも面白いからと言って勧めるくらいなのだから、ま~中学生にとってもちょうど等身大なのであろう。我輩が小中学生の頃は、『十五少年漂流記』とか『小公女』とかいわゆる古典的名作というやつばかり読んでいた、というかそれしか家になかったのだが、この『The MANZAI』のような身近な主人公のお話は皆無だったような気がする。最近はこの「ピュアフル文庫」とかゆう聞き慣れない出版社が、積極的にヤングアダルト向けの小説を文庫で出してくれるので、本好きの子ども達はかなり助かっているのではないだろうか。もっとも本を読む子ども達が最近どの程度居るのかは知らないが・・・

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【2006/11】The MANZAI 2

№86 The MANZAI 2  作者『あさのあつこ 』 ピュアフル文庫 253頁 ☆☆☆☆

 人気絶頂にある「あさのあつこ」漫才シリーズ第二弾。前作で一躍文化祭のヒーローとなった「歩」と「貴史」の中学生二人組が、ある事件に遭遇することで、いっそう仲間達との絆を深めていくハートウォーミングなお話である。
 中三の夏、歩が思いを寄せる美少女「メグ」に嫌がらせが起きた。さっそく友人達が「対策本部」を結成。事件解決を願うが、さらに歩が暴行事件に遭遇することで、事態は意外な展開に・・・
 と、まあストーリーはごく素直な「中学生日記風」ではあるが、前作よりさらに「いじめ」に対する見方が深化している。中学生やその親にとって「いじめ」や登校拒否は深刻な問題であり、それこそ国会でも取り上げられているほど事態は悪化してきている。「あさのあつこ」は、TV討論や新聞記事レベルの皮相的解釈ではなく、いじめる側の気持ちや感性を十分考慮し、どう対応すべきかまで提示している。さすがである。
 この漫才というキーワードが、従来の「あさのあつこ」らしからぬ言葉なので、どうなることやらと思っていたのだが、「笑い」が全ての悩みを吹き飛ばし、自分だけでなくほかの人達までも幸せにする「魔法の言葉」だということが良く分かる仕掛けになっているのである。心温まるお話を読みたい人にはぜひお勧めしたい、青春小説の傑作なのだ。

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【2006/10】川の名前

№81 川の名前 作者『川端 裕人』 ハヤカワ文庫 487頁 ☆☆☆☆

 「夏のロケット」「リスクテイカー」「竜とわれらの時代」と、先端技術情報を駆使した傑作を出し続けている作者が、これまでと打って変わって人間と自然の係わりをテーマにした少年の冒険談を出してきた。これがなかなかのお勧めなのである。特に子ども達にぜひ読んでもらいたいのだが・・・
 小学5年生の3人組が、自分達の住む地域の川をテーマに夏の自由研究をすることになった。意外にも川には隠れた謎の生き物が住んでおり、少年達はその謎の生き物と川を巡って、日本中を驚かす大冒険を始めていくことになっていく。
 「川の名前」という不思議なタイトルの意味は、読んでからやっと分かることになるのだが、川というごく身近な自然を題材にし、いかに自然が人間にとって大事かということを、少年の目を通して教えてくれる。主人公の少年は世界を渡り歩く写真家の父がいるのだが、離婚しているため父子家庭でもあり、一人で生きていかざるおえない。このため友人や奇妙な老人との交流を通して次第に自立し、とうとう地元の川から世界に繋がる海に向けての大冒険を繰り広げることで、成長を遂げていくのである。
 出だしは地味で、主人公の小学校生活から始まるのだが、謎の生物を発見し観察する中盤も結構スローテンポのため、一気にヒートアップするラストの展開まで結構長く感じた。ま~自然との共生を謳うお話なのだから、性急な展開は似合わないのは当然なのだが・・・。

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【2006/9】 The MANZAI 1

№78 The MANZAI 1 作者『あさのあつこ』 ピュアフル文庫 238頁 ☆☆☆

 「あさのあつこ」は、やはり目の付け所が面白い。今度は漫才である。中学生が主人公で漫才なのである。ベストセラーになった「バッテリー」も、まともなと言うか通常の児童書だと野球を描くなら集団で描くはずのに、孤高のピッチャーとその言動に振りまわされる周囲の人々という観点で描いていた。「バッテリー」は若干ストイック過ぎてユーモアには欠けているのだが、今回は何と「漫才」である。確かに最近は何度目かの漫才ブームの中、中高校生の間でも人気が高いはず。そこに目を付けた作家が少ないのも事実。まず中高生が興味を持ち、本を手に取ってもらわなければ話にならないので、その意味においてはマーケット志向である。
 しかし、漫才をネタにしているからと言って軽めに書いてあるかと言うと、さすが「あさのあつこ」である。繊細で壊れ易い中学生を主人公におき、意外というか当然のように内省的なのである。
 お話は、交通事故で家族を失った中学生が、転校先の同級生からなぜかいっしょに漫才をやろうと誘われるところから始まる。普通じゃないと言われることに敏感な主人公は、悩みながらもこれを受け入れ、過去のトラウマを克服し、最後は文化祭の大舞台でヒーローになるお話。
 こうまとめてしまうとありがちな児童書のパターンで、サッカーや野球などのスポーツを漫才に置き換えただけのように見えてしまうが、対象がスポーツではなくやはり「マンザイ」という言葉の「やりとり・掛け合い」であるところがミソ。この「あさのあつこ」の文章の特徴に「会話」があるのだが、テンポ良くリズミカルにおしゃべりすることで生き生きとした中学生を描こうとしている。「している」と書いたのは、それが完全に効果をもたらしているかというと、複数の登場人物が会話をしている場面では、誰の発言かが分からなくなる場合が良くあるからなのだ。このため文章的にはリズミカルでも、何度も読み返すことになるためにその効果が得られていない。ここは巻末の解説者とは意見が異なるところだがしかたがない。
 ま~このあたりは「重箱の隅」なのだが、関西圏の漫才に対する価値観とか文化の違いも分かりなかなか面白かった。とにかくこの「あさのあつこ」は、中学生の男の子に対する思い入れが強く、理想化する傾向があるが、それはそれで健全なので、安心して中学生にお勧めできる小説になっているのである。

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【2006/6】でりばりぃAge

№58 でりばりぃAge 作者『梨屋 アリエ』 ☆☆☆☆

 「講談社児童文学新人賞」の受賞作。いわゆるYA(ヤングアダルト)ものだが、最近読んだYAものの中ではなかなか光っていた。ストーリーは、夏期講習をサボった女子中学生が、古びた家に一人で過ごしていた青年と静かな時間を共有しているうちに、少しづつ悩みを共有していくお話である。自然食品であることばかり気にして、夕飯を作らない教育マニアの母親。家に帰ってきてもゲームはかりしている父親。家に居るときは良い子に変身する弟。どこにでも居そうでどこか変な家族。今時の典型的な家族が、いかにねじれているかが分かり易く、しかも少女の感情の揺れ具合が新鮮である。
 YAものをそれほど読んできるわけではないが、若い女性の作家しかいない(としか思えない)この世界では、作品の内容はどうしても学校生活を中心に、友情、家族、恋を描くことになる。もちろん子ども達が社会との関わりにおいての悩みや事件がテーマになる場合もある。しかしYA読者が求めているのは社会性より、やはり感情移入できる少年少女のリアルな心情であり、瑞々しい感性なのである。というか、解決の糸口さえ見えない深刻な社会問題では理解されないし重すぎる。身近な学校生活とその周辺にある問題の方が、YAの中心読者の女性にとっても、社会経験がまだまだ足らず少女時代の感性を肌で覚えている女流作家(今では死語?)にとっても、描きやすかったはず。
 なので、数ある児童文学賞に選ばれる作品は、どれもこれも『思春期にある少女の心の成長を細やかに描いた作品』ばかり、と言うといい過ぎか。

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【2006/6】ぼくらのサイテーの夏

№56 ぼくらのサイテーの夏 作者『笹生 陽子』 ☆☆

 著者96年のデビュー作で、「日本児童文学者協会新人賞」「児童文芸新人賞」と、ダブル受賞の作品である。
 ぼくは6年生一学期終業式の日に、「階段落ち」勝負に敗れて怪我をしたうえ、夏休みに毎日プール掃除をやらされる羽目になった。猛暑の中でのサイテーの夏休みは、イライラしている「ぼく」の独白で幕が開く。
 友人や家族との関係を少年の目線で描くのだが、フツーのどこにでもいるちょっとツッパッた少年が、友人達の家庭環境を垣間見たりすることで、家庭崩壊の危機にある自分の家族に立ち向かっていく様は、自然で力強い。引きこもり、単身赴任、両親の離婚の危機、不況など、いやでも社会と対峙することで少年は成長していく。ま~最後はお決まりの大団円を迎えるわけだが、中学生になったとたんに変貌してしまうのだけはちょっと違和感がある。とりあえず、小中学生に安心してお勧めできる良書であることは間違いない。

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【2006/5】夏期限定トロピカルパフェ事件

№51 夏期限定トロピカルパフェ事件 作者『米澤 穂信』 ☆☆☆☆

 小市民シリーズ第2作である。第1作目の「春期限定いちごタルト事件」は完全に中高生向けのライトノベルスだったが、そのつもりでこの第2作を読むと良い意味で裏切られる。これは大人のミステリーファンにお勧めの上質な青春ミステリーである。形式的には連作短編集のような長編で、読みきり短編としても楽しめる。
 お話は、小市民たることを標榜し、ひたすら平穏な日常を希求する高校生の小鳩くんが、恋愛関係でなく互恵関係にある小佐内さんの<スイーツコレクション>に付き合わされるところから、次第に波乱万丈の夏休みになっていくお話である。最初はいつものように、ど~でもいいような瑣末な推理合戦から始まるが、意外なことに警察沙汰になるような事件が勃発してしまう。水を得た魚のように小鳩くんは活躍するが、実はその裏には隠された陰謀があったのだ・・・
 ま~事件の解決編の途中まではほぼ予想範囲の展開で、予定調和の中で大団円と思いきや、ラストは意外な結末なので嬉しくなってしまった。連作短編の中でさりげなく伏線が仕込まれており、最後まで来ると作者の大仕掛けがようやく分かる構造であり、そういう意味ではよくできたミステリーである。最初はキャラものとしてとらえていたので、ミステリーとしてはハナから期待していなかったからこそ評価しているのかもしれないが。逆に言えば主人公のキャラが立っており、それだけでも読む気になるライトノベルスなので、お手軽ミステリーをお望みの人には思わずお勧めしてしまいたくなる作品なのである。

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【2006/4】春期限定いちごタルト事件

№43 春期限定いちごタルト事件 作者『米澤  穂信』 ☆☆☆

 男女の高校1年生が主人公の青春ライトミステリィ。殺人などとは無縁のほとんど謎ともいえないような謎を、なぜか小市民を決め込んでいる切れ者の男の子が、事件に巻き込まれながら、しかたなく解いていくお話。
 もちろん中高生向けのライトノベルスなのだが、屈折した少年を軽やかに描いていてなかなか楽しい。語り口があの庄司薫の「薫くん」シリーズにも似ていて最初は中高生でもとっつきやすく、しかもいかにもいわくありげな過去を少しずつしか明かさないので、次第に物語りにハマっていく、意外になかなか良くできた、大人にもお勧めできる
ライトな探偵ものです。(別に「宮部みゆき」より上等だといっているわけではありませんが・・)

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【2006/2】仮題・中学殺人事件

№19 仮題・中学殺人事件 作者『辻 真先』 ☆☆

 2005年版「この文庫がすごい!」ミステリー部門堂々の4位。しかも真犯人は読者だ! と、いきなり表紙に書いてある。(ネタバラシではない)ということで、期待して読んでみたが、ナンジャこれはという程度の作品。半分も読まないうちに仕掛けが分かるチャチなトリックであった。30年前にYA(ヤングアダルト)向けに書かれた軽めの推理小説なので、発表当時はどうか分からないが、トリッキーなミステリィに食傷気味の今時のミステリィマニアには不満のはず。
 ストーリーは、中学生が探偵役になってマンガ原作者殺しのアリバイ崩しと密室殺人の謎を解く話。それにしてもこの作品を推薦した批評家の神経を疑ってしまう。久しぶり(30冊ぶり、期間にして2ヶ月ぶり)のミステリィで期待が高かった分、がっかりさせられた。

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【2006/1】つきのふね

№14 つきのふね 作者『森 絵都』 ☆☆☆

 「野間児童文芸新人賞」を受賞した、中高学生向けのいわゆるヤングアダルト物。梨木香歩の「西の魔女が死んだ」や湯本香樹実の「夏の庭」と同じジャンルである。同じ中学生が主人公の青春物語でも石田衣良の「4TEEN」になると、なぜかYAものとは言われないようである。
 万引きしてしまった中学生さくら。親友を失い唯一の友人も心を蝕まれていく中で、何とか助け出そうと奔走していくことでやがて一筋の光が見えてくる。前半は中学生達の人間関係と心の動きだけを丹念に描いているが、ラストは奇跡を信じて一気に疾走していく。
 最近子ども達への推薦図書を探すため、YAものをいくつか読んでいるが、それにしても同じ思春期の中学生の心情を描いても、作家によってこうも違うものなのかとあらためて感じた。所詮大人の作家が書くのだから筆力の問題だが、大学生レベルの会話をしている「バッテリー」は極端としても、この作品のキーマン「勝田くん」の極端な行動も感動的ではあるのだが、どうしても不自然さを感じてしまう。大人には推薦するが、中学生の娘に積極的には薦める気はしていない。

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【2006/1】バッテリー

№5 バッテリー 作者『あさのあつこ』 ☆☆☆☆

 今話題の「バッテリー」である。小学生の息子に薦められてやっと読み始めたのだが、予想を裏切り児童書レベルの物語ではなかった。とても子供向けに書いたとは思えないベストセラーである。まるで読者の主人公への思い入れを拒否する、いわばハードボイルドな印象を感じた。
 物語は、これが小学生か?という次元の孤高の天才少年ピッチャーが、女房役のキャッチャーに出会う春休みの一時期の話だけで1巻が終わってしまう。小説としてはこの1巻だけでも充分完成された作品と思われるが、結局6巻まで書かれシリーズものになっていく。

№6 バッテリーⅡ 

 やっと中学に入学し、これで天才野球少年「巧」が活躍する「スポ根物語」になると思いきや、「巧」の特異な性格による周囲の反発により、意外な展開になっていく。
 作者はありきたりの児童書などにするつもりもなく、あまりに孤高な「巧」が触発する周りの世界の反応を、ひたすら丁寧に描写している。作者の「巧」への情熱は、作品よりはるかに熱のこもった「あとがき」にも表れている。ここまで熱くなったあとがきは少ないと思うが、この情熱が物語を引っ張っていく原動力なのであろう。

№7 バッテリーⅢ

 やはりこの小説の最大の魅力は、登場人物の造形にある。独善的で尊大な天才ピッチャーと気配り上手なキャッチャー、病弱でかわいい弟に頑固な元監督の祖父など個性的な人物を揃え、互いにぶつかりながら物語が進んでいく。リアルな野球の描写も多くなり、1球1球に熱い思いを込めた少年達の心を語っていく。
 なお、文庫には解説の代わりに、弟の視点で書かれた書下ろし短編が付いてくる。これがバッテリーの別解釈になっており、なかなか心に沁みる。

№8 バッテリーⅣ

 それにしてもほとんど巌流島の決闘である。少年野球の話を読んでいることを忘れさせるほどの迫力であり、とてもじゃないが中学生のピッチャー対バッターの対決といった次元ではなく、ほとんど武蔵と小次郎の決闘の域に達している。ある意味では現実離れしているとも言えるが、そんなことはどうでも良くなるほどの手に汗握る勝負が展開される。
 息子が続きを読みたくて、文庫本が出る前に単行本で全部読んでしまったのも分かる気がする。ま~おかげでこのブログの趣旨に反するが、4巻から6巻までは私も単行本で読んでしまった。そのくらい続きを読みたくなる小説だが、ストーリーは遅々として進んでくれない。
ちなみに、最近やっと出た文庫本には巧みの幼少時代のエピソードが付いてくるが、高額な単行本には入っていない。不公平である。

№9 バッテリーⅤ

 やっと5巻目である。多少なりとも「スポ根」ものになりつつあるが、相変わらず語り口は熱く突き刺さってくる。それにしてもシリーズ物だから当然ではあるが、ここまでかたくなに他人を受け入れない主人公は珍しい。少なくとも児童文学の常識としては、主人公の精神的成長が重要なテーマであるはずだが、この作品では主人公の変化より、友人や監督その他学校側など周囲の変化のほうに主眼が置かれており、そこがユニークである。
 話は主人公「巧」の女房役であるキャッチャー「豪」との関係が、ライバルとの対決などで次第に変節していく様を描いてる。非常に会話が多く、ときどき誰のセリフかわからなくなるのがタマにキズ。

№10 バッテリーⅥ

 とうとう第6巻。最終章となってしまった。今更ながら、この作品の魅力は、集団スポーツ、チームワーク重視であるはずの野球を、あたかも個人競技のようにピッチャー対バッターの図式にしてしまったところが大きい。否、ピッチャーとキャッチャーの関係に焦点を当てているところが新鮮である。だから「バッテリー」なのであろうが。
 作者は8年かけてこの物語を書いているが、物語では「巧」の中学校生活のわずか1年間だけしかない。しかも公式戦は最後までないまま終わりになっている。読者にとってせめてライバルとの決着は見たかったが、ストーリーを追う話でもないのでしかたがないか。

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【2005/11】夏の庭

№53 夏の庭 作者『湯本 香樹実』 ☆☆☆

 世界10ヶ国以上で翻訳され、日本児童文学者協会新人賞やその他世界の文学賞をいくつも受賞している作品。家、学校、その間の狭い地域しか知らない少年達が、好奇心から老人とかかわるようになってから、初めて他人と交流し、そして喪いも体験していく爽やかな小説。
 様々な家庭事情を抱え、将来に不安を抱きながらも家族以外の大人と初めて係わることで、次第に社会性に目覚めていく様子が丁寧に描かれている、小中学生に安心してお勧めできる良品。

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【2005/10】裏庭

№48 裏庭 作者『梨木 香歩』 ☆

 荒れ放題の洋館の庭にある秘密の「裏庭」。そこへ入り込んだ孤独な少女は不可思議な冒険の旅に出る。という95年第一回児童文学ファンタジー大賞のロングセラーである。
 バーネットの『秘密の花園』を思わせる設定だが、舞台の大半は異世界である『裏庭』での冒険談。テーマは良いのだがメタファーが多すぎ、肝心のファンタジー世界に魅力が欠けているのが残念。このため最後まで読み続けるのが苦痛になってくる。

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